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仙台市政だより 2020年3月号

特集1 3.11震災文庫を語る

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宮城県仙台市 クリエイティブ・コモンズ

■東日本大震災に関連する書籍等を集めた市民図書館の「3.11震災文庫」。その所蔵図書を紹介する市政だよりの連載「3.11震災文庫を読む」の執筆者に、震災文庫の果たす役割などをお聞きしました。

◇紹介した本に込めた想い
――震災文庫のことを話していただく前に、まず皆さんの震災当時の体験を聞かせていただけますか。
東北大学出版会事務局長 小林直之氏(以下小林):自宅から見える海が、震災後の数日間は茶色っぽく見え、松林が無くなったせいか、海が近づいたような気がするなど、なじみの風景の変化がすごく印象に残っています。本の出版の仕事に携わっているのですが、それも滞り、自分自身も本を読まなかった期間が1カ月くらい続いて、人生で初めての経験でした。
海辺の図書館 庄子隆弘氏(以下庄子):私は、荒浜で生まれ育ち、当時もそこに住んでいました。発災時は仕事中で、家の近くまで帰ってきたところで、津波の被害を目の当たりにし、一晩中家族や知人の安否確認をしました。自宅跡地につくった「海辺の図書館」は本も建物もない図書館。いろんな人が集まって一緒に食事や体験を共有しながら、語り合い、学び合う場です。荒浜の自然を楽しんだり、地域の人と会話をしたりすることは、荒浜という本を読むのと同じではないかと思い、図書館と名付けました。
児童文学作家 堀米薫氏(以下堀米):私は角田で農林業を営んでおり、その目線から児童文学を書いています。自宅の被害はありませんでしたが、福島の実家ともども放射性物質の被害を受けました。なかなか自分の体験は書けないのですが、物書きとしての使命感のようなものがあり、ただ夢中で本を書いていたという感じでした。

――市政だよりの連載は、初回小林さんから始まりました。
小林:本選びは迷いませんでした。言葉を残していくことが本の大事な機能の一つであり、意義でもあるので、言葉をキーワードに選ぼうと思い、「つなみ 5年後の子どもたちの作文集」にしました。これは、震災のあった夏に刊行された作文集に掲載された子どもたちが、5年後に再び書いた作文集です。最初の本が出たときはこんなつらい体験を書かせるのかと驚きましたが、5年後の作文を読んで、最初の作品があって良かったと思いました。5年前に発した言葉が子どもたちにとって勇気になったかもしれないし、5年後に新たな言葉を発する機会が生まれたという意味で、とても貴重な本だと思います。
庄子:私は、震災で失われた地域の文化や生活を残していきたいという思いから「あの日につづく時間 2011・3・11」を紹介しました。被災した荒浜を撮影した写真集ですが、最初に出てくるのが家のお風呂。被災してあらわになったプライベート空間を写すことで、この場所に人が住んでいたという証しが残ることがうれしかったですね。被害の悲惨さを伝えるだけではなく、ここに豊かな暮らしがあったということをこの本から知ってもらいたいという思いで選びました。
堀米:私は、児童書の「地震のはなしを聞きに行く―父はなぜ死んだのか」を取り上げました。津波で父親を亡くした筆者が、その理由に少しでも近づくために地震のことを調べていく話です。お父さんの死とこのように向き合うというのは本当に勇気がいることで、読んで涙が出ました。児童書は、1冊の本を介して自分の体験を子どもと語り合うことができます。被災地では皆、震災にまつわる経験を抱えながら生きている。それを震災を知らない子どもたちと、児童書を通して共有していくことが大事だと思います。

◇震災文庫を未来への懸け橋に
――震災文庫の果たす役割について、どのように考えますか。
庄子:なぜアーカイブではなく文庫という名前なのか。「震災文庫を読む」で皆さんが紹介した本を全部見たのですが、防災・減災の情報というより、やはり文庫に近い、お母さんから子どもに語り継いでいくような温かみを感じました。これからも身近な公共図書館の中にあって、ただのデータではない、心に寄り添えるものを置いてもらえたらと思います。気合を入れて読むというよりも、日常の中で自然に震災関連の本と触れ合える場であってほしいです。
小林:本は、読まれることで命が永らえると思っています。ですから本の収集、管理、アーカイブという流れの中に、必ず「読む」というアクションが加わるように工夫したいですね。読むという部分は市民が担うこと。震災文庫は市民が読むためのものであることが大事だと思っています。
堀米:本は読んでもらってこそ命が吹き込まれると強く思いました。市政だよりの連載も文章を書かれた方々の震災を伝えたいという思いが、ひしひしと伝わってきます。

――震災から9年を迎えます。震災文庫を通じて経験や記憶、ふるさとへの思いを伝えていくことについて、聞かせてください。
小林:書店でも図書館でも震災関連のコーナーは少なくなっています。図書館にはデータベースもありますが、震災という検索ワードでは引っ掛からない本もたくさんある。震災関連の図書を一覧して見ることができるということは計り知れない価値があり、図書館にしかできない震災の伝え方だと思います。また、この連載のように震災文庫を市民に紹介していくことも意義があることだと感じます。
庄子:収集するだけでなく、常に目にする身近な場所に震災文庫があることが大事だと思いますし、書き手の顔が見えるような書評も効果的ですね。それから、図書館に行くことができない人にどのように知ってもらうかということもあります。移動図書館で本を届けたり、被災地の集会所で本の紹介イベントをしたりするなど、もっと外に発信することができたらと思います。
堀米:風化といわれていますが、私は、9年たったからこそ書けるものもあると思っています。私自身、震災のことはこれまでノンフィクションでしか書くことができませんでした。いつか物語として書けたら、自分にとって震災が何だったのか分かるのかもしれません。これからもいろいろな立場の人から本は生まれると思います。そして、子どもたちへ語り継いでいくことはとても大切。震災の体験を共有し、共感することで、地域がつくられていくと思うので、そういう意味で震災文庫はとても重要だと思います。これからを生きる上で、貴重な教訓や知恵が私たちの中にあるわけですから、これを語り継ぐことで、必ず未来につながっていくと信じています。

■3.11震災文庫
市民図書館では、東日本大震災の記憶や経験を伝え、未来につなげるため、震災に関わる書籍や新聞、行政資料など約12,000点を所蔵し、貸し出し・閲覧を行っています。
市政だより平成29年10月号から連載を開始した「3.11震災文庫を読む」では、さまざまな方が毎月2冊を選び、紹介しています(今月号は「3.11震災文庫を読む28」をご覧ください)。

この特集に関するお問い合わせは、
問合せ:市民図書館
【電話】261・1585
【FAX】213・3524

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